もう一度、卒業式を

遠山くんが交通事故にあったのは、式の前日だった。
式の当日には病院のベッドに縛りつけられ、ギブスで固定されたまま、出歩くことなんでできず、当然、私たちの卒業式に出席することもできなかった。
みんな一緒に卒業するはずだったのに、それはできなかった。
一人欠けた卒業式。
クラスのみんなは、どこかで欠落感を抱えているかのようだった。

家の電話がかかってきた。両親は仕事で、弟は学校。今、家にいるのは私だけ。
私は、サイドボードの上の子機をとり、耳に当てる。
『あ、もしもし吉川さん?』
若い男性の声。どこかで聴いたことがあるような。
「はい。そうですが」
『あ、オレ、岩永です』

岩永くんといえば、私たちの元クラスのクラス委員長。みんなのまとめ役だった。
でも、なんでそんな男の子が、私の家へ電話をしてくるの?
『吉川さん、今、時間いい?』

ちょっと緊張する。こんな風に弟以外の男の子と電話で会話するなんて、いつ以来だろう。
『えっとね。遠山が、もうすぐ退院するらしいんだ。で、あいつ、卒業式でれなかっただろ?』
『だから、クラスのみんなで集まって、あいつのために卒業式をやってやれないかと思ってさ』

『ぜひ、吉川さんも出席してくれるとうれしいんだ』
私が承諾の返事をした途端、弾んだ声が耳に届いてきた。
『そっか、ありがとう。頼むね』
『それと迷惑じゃなければ、また連絡してもいい?』
そうして、電話は切れた。

結局、私、『うん、うん』って言ってただけだ。しゃべってたのは岩永くんだけ。
やっぱり、電話越しとはいえ、男の子と一対一で話すのは緊張する。ちょっと苦手だな。
苦笑しながら、ソファーにもどってクッションを抱えながら、さっきまで見ていたテレビに戻ると、今度はポケットの中でケータイ。亜美ちゃんからメールだ。
『遠山の話、メール見た? 月曜日、一緒に行こ』
亜美ちゃんにも、連絡が行ったみたいだ。学校のある日は、いつも毎朝待ち合わせて登校していた亜美ちゃん。多分、そのお誘いだろうな。けど、月曜日って何?
『うん、さっき岩永くんから電話があったよ。でも、月曜日なにかあるの?』
送信と。すぐに、今度はメールじゃなく電話が。

分類: 健康文化 發布時間:2016年08月10日