暑い夏の日、一本の小さな山道の脇に雑草たちがひしめき合うように茂っていました。その中に、細長い五、六本のギザギザの葉を傘の骨のように広げたオヒシバという雑草がいました。彼女は周りの草たちと同じような緑一色の自分の姿がひどく不満でした。彼女は、うわさに聞く真っ赤な色のバラという花のように美しくなりたかったのです。彼女は周りの草たちのお喋りに加わることもなく、一人静かにバラの花のことを思っていました。そして、オヒシバは風に身を揺らせながら、来る日も来る日も、自分がバラのような花を咲かせる日を夢見ていました。
オヒシバや周りの雑草たちが、実は皆それぞれが葉っぱの根元に目立たない緑の花を咲かせていたことに気が付かないまま、やがて暑い夏も過ぎ、短い秋も終り、そして寒い冬がやってきました。
夏の日の鮮やかだった濃い緑色の葉は今ではすっかり色あせてしまい、どの雑草の葉も皆くすんだような薄茶色になっていました。
そんな冬のある寒い日のこと、一面枯草色になった山道をどこからか荷車をひいてくる人がいました。それは山のふもとの花屋というものでした。荷車にはたくさんの色鮮やかな花が積まれていて、その中にはひときわは美しい真っ赤な花がありました。
枯れ果ててほとんど意識を失いかけていたオヒシバの目に、前を通り過ぎる荷車の中の赤い花が映りました。そのとき、一瞬、オヒシバは、ついに自分がバラのような真っ赤な花を咲かせたのだと思いました。でもすぐに、それが夢であることに気が付きました。というのも、いつの間にか降り始めた冷たい雪がふわふわと頭の上に積もって彼女の目を覚まさせたからでした。
ところがそのとき、オヒシバは自分の姿を見て驚くほど喜びました。
遠のいていく意識の中で、オヒシバは、あのバラの赤い花よりもはるかに美しいまばゆいほどの真っ白な花を咲かせたと思ったのでした。
分類: 健康文化 發布時間:2016年05月13日