どれほど見馴れた風景も、その時々の気分によって随分と違ったものに見えたりする。
宴の喧騒から抜け出してきたユニは、酔いを覚ますために外でゆっくりと散策に興じていた。今日を限りに成均館を離れる学士が三人いるため、今宵は東斎・西斎の垣根を越えての送別会をおこなっている。見送られる三人の中には、ユニの同室生も一人混ざっていた。
「なあ、テムルも寂しくなるよなあ。とうとうあの中二房で、独りきりになっちまうんだからよお」
「そういうあんただって、明日には出ていくじゃないか」
「まあそうだが。なんだ、俺と会えなくなるのが寂しいのか?」
「友達と離れ離れになるのに、寂しくないわけがないよ」
「ああ、そうだな。もちろん俺も寂しいさ。花の四人衆とも、ついにお別れとはなあ──」
馴染みの中年学士、アン・ドヒョンが目に涙を浮かべながらしみじみと放った言葉を、銀杏の大木に寄りかかったユニは頭の中で反芻した。
花の四人衆のうち一番の出世株と見込まれていたイ・ソンジュンは、案の定いち早く科挙に合格し、成均館を去っていった。一年ほど前のことである。しばらくして、端から科挙を受けることに思い入れのなかったク・ヨンハが、いい加減本当に自分のやりたいことを見つけたいからと言って、自主退学した。そして今回、ユニにとって唯一の同室生となった暴れ馬のムン・ジェシンが、先日の文科武科両方に晴れて合格し、卒業することになった。
この一年間、人が変わったように真剣に勉学に取り組むジェシンを、ユニは傍で見つめてきた。出逢った頃は荒波に揉まれて心すさみ、堕落した生活を送っていた彼だったが、金縢之詞の一件以来心境の変化があったらしい。これまでの遅れを取り戻すために、外出をいっさいしなくなったばかりか、寝食する間すら惜しんで日がな一日文机に向かった。そんなジェシンの姿に、ユニはかつて尊経閣の蔵書を一冊残らず全て読破したという、勤勉家な彼の再来を目の当たりにしたと思った。
「コロ先輩、どうしてそんなに一生懸命なんですか?」
ある夜、彼女に背を向けて書物に読み耽るジェシンに、ユニは訊ねてみたことがある。ジェシンは彼女の方をちらりとも振り向かずに、ぶっきらぼうに告げた。
「見返してやりたいからだよ」
「見返す?一体、誰のことを?」
「──いいから、お前はもう寝ろ」
はぐらかされて、それ以上は聞けずじまいだった。無言の背中がまるで「邪魔をするな」と言わんばかりで、それからのユニは、ジェシンに話しかけることすら遠慮するようになってしまった。
ぎくしゃくした雰囲気のまま、満を持して彼は科挙に挑み、晴れて合格して、成均館卒業が決まった。宮仕えをする彼とは、今日を限りにもう会えなくなるだろう。ユニが王宮殿に出仕することは決してないのだから。
「……おめでとうございますって、言わなくちゃ」
銀杏の木の根元に蹲って、ユニは一人ごちる。まだ面と向かっては言えていない言葉だった。
分類: 健康文化 發布時間:2016年03月14日